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家族性LCAT欠損症とは

監修:千葉大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 横手 幸太郎

コレステロールは、体のはたらきを維持するために不可欠な成分です。一方、使い切れずに余ったコレステロールは体に有害な場合もあるため、「善玉」と呼ばれるHDLに取り込まれ、血液中を肝臓へと送られ処理されます。このように不要となったコレステロールをHDLに載せて肝臓に送り込むためには、LCAT(レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ)という酵素が必要です。実際、LCATのはたらきがなければ、不要となったコレステロールが分処理されずに体のいろいろな組織に蓄積されてしまい、病気を引き起こす原因となります。 (家族性)LCAT欠損症とは、LCAT遺伝子が生まれつき欠けていたり、遺伝子に異常があるため、LCAT蛋白を体の中に作り出せなかったり、または活性を持つLCATを作ることができなせなかったりする病気です。LCAT欠損症の患者さんは、LCATの活性が著しく低いため、血液中のHDL-コレステロールが著しく減少(20mg/dL未満(※1))するとともに、体内の脂質代謝に異常をきたします。その結果、角膜混濁や腎機能障害(尿蛋白)、溶血性貧血(動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状)などの障害を起こします。特に、角膜混濁と腎機能障害は、LCAT欠損症の予後を左右する重要な合併症で、低脂肪食、低蛋白食の食事療法が行われますが、これまで有効な手立てはみつかっていませんでした。

家族性LCAT欠損症の診断基準

レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(家族性LCAT欠損症)の診断基準は、厚生労働省の指定難病【指定番号259】(平成27年7月1日)に紹介されています。
厚生労働省ホームページ
また難病情報センターにも同じ情報が掲載されています。
難病情報センター

家族性LCAT欠損症の診断手順

HDL-コレステロール20mg/dL未満(※1)

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特徴的な症状

以下の症状の内、一つ以上に該当するか否か
★症状
 ■蛋白尿
 ■腎機能障害
 ■角膜混濁
★血液生化学
 ■貧血(ヘモグロビン値11g/dL未満)
 ■赤血球形態の異常
  ・標的赤血球
  ・大小不同症
  ・奇形赤血球症
  ・口状赤血球
 ■コレステロールエステル比(70%未満)

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除外診断

次に以下の疾患には該当しない
★他の遺伝性低HDL-コレステロール血症
 ■タンジール病
 ■アポリポタンパクA1異常症
★続発性低HDL-コレステロール血症
 ■肝疾患(肝硬変、劇症肝炎)
 ■胆道閉塞
 ■低栄養
 ■悪液質など蛋白合成低下を呈する病態

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LCAT遺伝子の解析

家族性LCAT欠損症の場合、適切な治療方針を立てるため遺伝子検査を行います。
 ■LCAT活性の確認
 ■LCAT遺伝子の変異・欠如の確認

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家族性LCAT欠損症と診断

(※1) 厚生労働省から2015年7月1日難病指定された時点では、LCAT欠損症の診断基準は、HDLコレステロールが10mg/dL未満となっていますが、以降HDLコレステロールが10mg/dL~20mg/dLである患者さんでも、LCAT欠損症と診断された方々がいらっしゃいます。

家族性LCAT欠損症の治療法とは

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厚生労働省より難病指定されたレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(家族性LCAT欠損症)の「概要、診断基準等」の資料に、千葉大学で開発されたLCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞による治療法の研究が紹介されています。この治療方法は、厚生労働省で約3年をかけて慎重に審議され、2013年5月に厚生労働省よりその治療法を用いた臨床研究の実施が承認されました。本治療法を望まれ、その計画に適したLCAT欠損症患者さんでおられる場合、臨床研究として本治療法を受けることが可能です。

LCAT遺伝子導入ヒト前脂肪細胞による治療法

この新しい治療法は、患者さんから取り出した脂肪細胞にLCAT遺伝子を組み込み、その脂肪細胞を培養して細胞数を増やした後に患者さん本人の皮下脂肪組織に戻すことにより、患者さんの体内でLCATが作り出されるようにして、不要なコレステロールを正常に処理することによって病状の進行を止める、または改善することを期待して行う遺伝子治療/再生医療等技術です。
千葉大学では、この臨床研究の実施に向け、製品が「安全」 に作られ、「一定の品質」が保たれる製造体制を整えました。

LCAT遺伝子導入ヒト脂肪細胞による治療法の概要

<図>治療法の概要

なお、これまでこの治療法をヒトに対して行ったことがなく、ヒトでの安全性については、確実には証明されてはいないため、現時点では副作用などが起こる可能性を完全に否定することはできません。しかし、遺伝子操作などを施すことで、ヒト脂肪細胞が持っている本来の性質などが変わらないことや、動物実験で、悪い影響の現れないことなどが確認されています。
また効果についても、この方法を用いた動物実験でLCATが体内で作り出されることを確認しています。LCATを生まれながらに持たないマウスにLCAT遺伝子を組み込んだ脂肪細胞を移植した実験では、移植した細胞から作り出されたLCATが血液の中に分泌されることが確認され、HDL-コレステロールを増加させることがわかっています。
一方、LCATを生まれながらにもたないマウスは家族性LCAT欠損症の患者さんとは違って、角膜混濁や腎機能障害、溶血性貧血などの症状をもともと起こさないので、これらの症状に対するこの治療法の効果は不明です。

連絡先

LCAT欠損症の検査や診断、治療法にご関心のある方は、千葉大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科までご連絡下さい。

〈専門の診療のご案内〉

千葉大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 横手 幸太郎 先生/石川 耕 先生

〈連絡先〉

千葉大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 石川 耕 先生
〒260-0856 千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1
Tel043-222-7171(代表)
e-mailishikawako@chiba-u.jp

千葉大学医学部附属病院 未来開拓センター 黒田 正幸 先生
〒260-0856 千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1
Tel043-222-7171(代表)
e-mailkurodam@faculty.chiba-u.jp

関連サイト

千葉大学附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科

千葉大学大学院 医学研究院 細胞治療内科学

千葉大学医学部附属病院 未来開拓センター

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